おじさん図鑑

『つれづれなるままに』

 某有名観光地で、高台の遊歩道を歩いていたら、「近道」と看板にあった。そこには茶店があり、眼下に広がる景色がすばらしい。思わず息をのむほどの眺望が開けている。おじさんたちは、その茶店の前で記念写真を撮ろうとカメラを構えた。すると茶店の人から声がかかった。

 「この場所は私有地なので、道を利用するのだったら何か注文していただくことになっています」

 もう道半ばに踏み込んでいたので、いまさら引き返すのも面倒だ。昼時には少し早いが、「名物あなご飯」なるものを人数分注文し、堂々と茶店のベンチに座った。もう写真も撮り放題だし、苦情を言われることもない。しかし、なんだか釈然としない。

 「近道」を次々と観光客がやって来る。そのたびに店の人は先ほどの口上を繰り返す。聞いたほとんどの人が引き返し、別の道を行く。名物と称する「あなご飯」のあまりの貧弱さのガッカリしたこともあって、次第におじさんの気持ちがざわつき始めた。

 あの「近道」と書いた看板は茶店の「策略」ではないか。おじさんは少し興ざめして、あの看板「なからましかばと覚えしか」(『徒然草』第十一段より)。

(エッセイスト)飛鳥圭介

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